年老いた母は、足腰も弱くなり、遠出することがだんだん難しくなってきました。
「もしかしたら、これが一緒に旅行できる最後の機会かもしれない」――
そんな思いから、心からのおもてなしで評判の宿に母を連れて行くことにしました。

宿に到着すると、母は嬉しそうに辺りを眺め、笑顔がこぼれていました。季節の花が咲く庭、丁寧な接客、美しい盛り付けの食事。そのすべてが母の心に響いたようでした。

いつもは食が細くなってきた母ですが、その日は驚くほどよく食べ、私よりも先に完食していました。「無理して食べたんだろうな」と思いながらも、その姿に胸が熱くなりました。きっと、私の気持ちに応えようとしてくれたんだと思います。

母への感謝の気持ちと、かけがえのない時間を過ごせたことに、心から感謝しています。
“おもてなし”の力が、人の心をあたため、思い出をより深いものにしてくれることを、改めて感じた旅でした。

「大切な人」と聞いてふと思い浮かんだのは、私の母でした。
以前から「一度行ってみたい」と話していた蕎麦屋にようやく一緒に行く時間を持てた日。

静かで落ち着いた店内に入り、お蕎麦を前にした母は、まるで子どものように目を輝かせていました。一口ひとくちを丁寧に味わいながら、
「おいしいね」「来られてよかったね」と何度も笑うその姿に、ああ、やっぱり連れてきてよかったなと、胸がじんわりと温かくなりました。

母への感謝の気持ちを込めて、少しだけ贅沢な「ちょっといいお肉」を選び、お届けしました。

「美味しかったよ」「嬉しかった！」
電話越しに聞こえた母の明るい声に、ほっと胸をなでおろしました。

たったそれだけのことかもしれませんが、
少しでも喜んでもらえたなら、
ほんの少しでも親孝行ができたかなと、そんな気持ちになりました。